勉強と動機づけを中心に今まで記事にしてきていますが今回もその流れで、学習心理学の視点で考えた行動の生起を見てみます。
日常使っている言葉でも、心理学の中で使うと意味が全く違うものがいくつかあります。それがタイトルにもあげたものです。
例えば心理学の勉強をしたことがない人が、子どもの勉強について教育の本を読んだとします。そしてその本が心理学的視点で書いてあったとします。すると本は心理学的視点で書いてあるがゆえに、言葉の解釈のちがいから、読み手が誤解をしてしまうということも考えられます。その誤解がもとで、子どもに間違ったアプローチをしてしまうことだって十分にありえるのです。
もし今まで、教育に関する本を読んだは良いけど何だか納得いかないなぁ、と思ったことがあるなら、もしかすると言葉の解釈の違いがそうさせていたのかもしれません。
今回はそういう誤解を少しでも解消できればと思い、今までと少し視点を変えて心理学ミニミニ講座として書いていきます。なおこの記事を読んだからといって心理学のテスト対策にはなりません。あしからず。
それからレポートに困った学生は「強化 罰 負の強化 正の罰 オペラント」で検索してこの記事にたどり着いたかもしれませんが、きっと参考になりません。それどころかこの記事を参考にレポートを書いたらたぶん落第します(笑)。お気をつけください。
ちなみにですが、心理学を学び始めたばかりの大学生や、趣味として心理学を学びたいけどどの本を導入として読み始めれば良いか迷っている方は、以下の本が読みやすくて学びやすいです。ご参考にどうぞ。
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学習心理学ミニミニ講座
学習心理学における「学習」とは
「経験によって生じる比較的永続的な行動の変化、それを生じさせる操作、及びその過程」
と定義されます。学校のお勉強という意味での学習とは全く違います。
また「罰」も日常使っている意味とはずいぶんと違います。罰ゲームとか、何か悪いことをしたら罰を与えるなど、不快に感じることを与えて行動の修正を試みることを日常では罰と言いますが、
学習心理学における「罰」とは
「反応の出現を減少させること」
を指します。なので必ずしも不快な要素を含んでいるわけではありません。極端な話、「褒めているのに罰」ということも心理学的解釈では出てきます。何だかややこしくて混乱してきますね。(最近では罰とは言わず弱化と言い換えているケースもみられます)
そして心理学でいう罰の対義語にあたるものが「強化」です。
「反応の出現を増加させること」です。
正と負。これも日常とは少し意味が違います。
「正」は「ある刺激を与えることで、その後に行動頻度が変わる流れ」
「負」は「ある刺激を取り除くことで、その後に行動頻度が変わる流れ」
のことをいいます。
これらを組み合わせると次の4パターンができます。
・正の強化 ・正の罰
・負の強化 ・負の罰
この4パターンについて具体例を出して紹介します。
なお通常学習心理学においては、感情という不確定要素は考慮にいれません。したがって以下に挙げる例は学習心理学の具体例としてはあまり適切ではないのですが、心理学的側面からの言葉の意味を理解していただければと思います。
〜正の強化〜
久しぶりに化粧をして街に出かけている良子さん。そこにナンパ野郎が良子さんに声をかけました。
ナ「君、かわぅい〜〜ねぇ〜!!」
良「えぇぇっ〜!!」
良子さんは嬉しくなって帰宅後、夜にも関わらず化粧の練習をしました。
もっと言われたいから。
ここではまず、良子さんが「化粧をして」いました。そこにナンパ野郎のセリフが刺激となっています。その結果良子さんはさらに化粧をするという反応につながっていきます。「刺激を与えたこと(正)で行動が誘発された(強化)」この流れが正の強化になります。
〜負の罰〜
ナンパ野郎と気を良くした良子さんは数日後デートをすることに。
良子さんは化粧の練習のかいもありばっちり決めています(強化)。さらに注目を浴びること間違いなし!!
相変わらずナンパ野郎は「君、かわぅい〜〜ねぇ〜!!」(正)。
良子さんは初めてのデートでもう嬉しいのなんのっ。
それからしばらくして2人でカフェに入ることに。
しかしナンパ野郎の様子が何だか変。良子さんではなく別の方を向いている。突如話もしなくなった。特にケンカをしたわけでもなく今まで盛り上がっていたのに…。よく見たら、向こうに座っている美人さんを見ているではないか!!
良「何この男。こんな男とはもう会わない。化粧してた自分がばかみたい。化粧もしない!!」。
良子さんは化粧をすることでナンパ野郎の注目を集めようとしていました。しかしカフェに入りナンパ野郎のセリフが無くなったこと(というよりこの時点ではナンパ野郎が美人さんに注意を向けていること)は、良子さんから見ると刺激を取り上げられたことになります(負)。その結果、化粧をするという行動の減少につながっていきます(罰)。「刺激を取り上げたことで行動が減少する」この流れが負の罰です。
〜正の罰〜
ナンパ野郎、あろうことか良子さんを置いて美人さんのところに行ってしまいました。そして、
ナ「君、かわぅい〜〜ねぇ〜!!」
美「えっ!? えぇ…。」
その美人さん、化粧品メーカーの営業だったらしく、ナンパ野郎はナンパどころか営業をくらってカタログを渡される始末。結局元の席にのこのこ戻ってくるのでした。
戻ってくるなりカタログを良子さんに手渡して、
ナ「このカタログ見てみぃ、良子もっとかわぅいくなるよ!」
良「… (# ゚Д゚) ナンパ野郎サイテ〜!! もう化粧なんてしない!!」
のこのこ帰ってきたナンパ野郎に対し、良子さんは嫌悪感を持ちました。この時点ではナンパ野郎自体が刺激となっています(正)。その結果良子さんはさらに化粧をしないということになっていきます(罰)。「刺激を与えることで行動頻度が減少する」この流れが正の罰です。
ここで1つポイントがあります。この時点ではナンパ野郎のカタログを渡すという刺激は、化粧をしないという結果につながっていきます。おそらく次から次へとカタログを渡したら、良子さんの化粧をしないという思いはより強くなることが考えられます。でも、もし険悪な雰囲気になる前に何らかの形でカタログを手に入れ渡していたら、良子さんはさらに化粧に興味を持ったはずです。
つまり全く同じ刺激をあたえても、状況次第で強化にもなるし罰にもなるということ。当たり前といえば当たり前ですが、当たり前すぎるから普段気づけないということもよくあります。
〜負の強化〜
結局良い思い出をつくることなくデートを終え帰宅した良子さん。「もう化粧なんてしない」と呟いているところに姉の良枝さんがやってきて、「じゃあこのチークもらってくよ〜っ。前から欲しかったんだよねぇ〜♬ っていうか化粧品全部もらっとくねぇ♪」。
手元から化粧品が無くなって、良子さんは改めて思いなおしました。
「ナンパ野郎はムカついたけど『かわぅい~~ねぇ~!!』って言われたのは嬉しかったなぁ。…、もしかしたら化粧しないでいると一生誰からもかわいいって言われないかもしれない。あぁ~、そんなの嫌だ。また化粧しよっ。もう化粧なんてしないなんて言わないよ絶対。」とか言いながら後日買いに行くのでした。
良枝さんが化粧品を持って行ったのは良子さんから見たら(負)、刺激を取り除いていることに相当します。その結果改めて化粧をするという行動が表れ(強化)、誰からもかわいいと言われない不快な状態を回避しようとしています。この流れが負の強化です。もっともこの場合、良枝さんという別の要因が入ってきたので純粋に負の強化とは言い切れない面もありますが、「刺激を取りのぞくことで反応を出現させることがある」というふうに理解してください。
ここでは現実的にありそうな話を例に正と負、強化と罰を紹介しましたが、日常的な意味とは全く違くということは理解していただけたかと思います。
もしかしたら、というより絶対、具体例を出すなら勉強と関わりのある内容にしろ!! とお怒りの方もいるかもしれません。(もっとも、お怒りになる方はここまで画面をスクロールしていないでしょうけど…。)
逆に興味深く読んでいただいたなら、それはありがとうございます。さらに次回の記事も楽しみにしてくださっているなら、これほど嬉しことはありません。
ということでここで問題です。
この記事を読んでくださったということは、何かを得ようとして「読む」という行動をしています。そしてこの記事は、読んでくださったあなたにとって刺激になっています。そのうえで「次回の記事を読む」という行動は、上記に挙げた4パターンのうちのどれになるでしょう?
また、逆に「二度と読まないぞ」という場合はどのパターンになるでしょう?
———2020年7月10日 追記―――
最後までお読みくださりありがとうございます。
この記事は、当初の予想を大きく超える心理学を学んでいる方からのアクセスが多くなっているようです。冒頭にも書きましたが、心理学の試験対策やレポートの参考として書いた記事ではないので、まじめに心理学を学ぼうと思いここにたどり着いた方は期待ハズレだったかもしれません。
次ページも今回のお話の続きになりますが、もう少しまじめな内容で書いてあります。将来教育関連の道に進もうと考えている学生さんには、何かのヒントになると思います。
もしよろしければ 次ページ へお進みください。
今後教育の道に進んだときに、ちょっと考えてほしい内容です。