「目標を立てなさい!」とは言うけれど…

 動機づけのプロセスについての記事を何度か書いていますが、今回もその続きで「目標をたてること」に関連づけて書いていきます。
 簡単に動機づけのプロセスをおさらいすると、『何らかの先行要因が3つの要素に刺激を与えることで動機が形成され、それにより目標の設定に到り、目標達成行動が生じる』というものでした。

 普通日常生活において目標ということばは、特に意識することなく簡単に使っていると思います。でも目標もいくつかの種類に分類することできます。で、その分類を特に意識せず一緒くたにしたまま単純に「目標」と言ってしまうと、思ってもいなかった方向に事が進んでしまうこともあります。
 もちろん目標をたてるのは大切なことですし、何かをやり遂げる意味ではやはり必要です。でもその目標の先にあるものや目標設定に到った根底にあるものを認識しておかないと、かなり危険な方向に進んでしまうことだってあるのです。 
 テスト前になっても子どもが勉強しないとつい「目標をたてて勉強しなさい!」と言ってしまいがちですが、これだって実は危険をはらんでいます。

 ところで目標を分類すると次のようになります。

 ここで、子どもの頃から研究熱心だけど少し運動が苦手なA子さんを例に、目標設定について考えてみます。(もちろんフィクションです)

【「ちょっと前に『パンケ~キ食べたいパンケ~キた…』なんて言ってる人がいたけど、おいしいパンケーキを作りたいなぁ~。よし、研究のため毎日5件パンケーキのお店に食べに行こう!!」
 ということで、A子さんはタクシーで街まで出かけることになりました。】


 これは熟達目標になります。5件のお店に食べに行くという課題をやり遂げることで、パンケーキを作るという能力を高めることにつながりますから。
 この場合、目標の先にあるものが自身の能力を高めることになっているので、やってて楽しいのはもちろん、集中もするでしょうし理解も深まるでしょうね。多少失敗したとしてもいい勉強になったと思えるでしょう。この域になるともはや、目標を目標と思えなくなるほど日常の一部になっているかもしれません。

【おいしいパンケーキを作りたいという願望のもと熟達目標を毎日着実に達成すること6か月。知識の量はだいぶ増えました。体重も+20kgとだいぶ増えました。
 「ヤバい!! 20日後には20年ぶりに中学校の同窓会がある。どうしょ~かぃ。憧れだったクラスメートのB君に『A子ずいぶんぽっちゃり系に変身したんだね』なんて言われるのもしゃくだし、何とかせねば…。」
 とここでA子さんは21kgのダイエットをしようと考え、毎日自転車でパンケーキのお店に行く事にしました。「A子20年ぶりだけど全然変わらないねぇ!! っていうかスタイル良くなってない!?」と言われたいために。】

 この「毎日自転車でお店に行く」のは遂行接近目標になります。というのは、B君からのポジティブ評価を得ることが目標の先にあるからです。遂行接近目標にはポイントが2つあります。まず、短期的には有効な目標であっても長続きはしにくいということ。そして内発的な動機づけにはあまり効果がないということ。
 なぜなら自分自身の内部から湧き出た思いというよりか、「B君からの評価」を気にしてできた目標だからです。自分の判断よりも他者からの判断で目標が達成されたかされなかったかが決まるので、A子さんがどんなにがんばっても絶対に目標が達成されないということだってじゅうぶんにあり得るのです。もしB君の評価が「A子ぽっちゃり系だね」だとしたら、B君に全く悪気がなかったとしても、A子さんの気持ちの中で努力は無になってしまいます。ダイエットをする気だってなくなるかもしれないし、ダイエット自体をばかばかしく感じてしまうかもしれません。これって恐ろしいことだと思いませんか?

 【同窓会まであと1週間。運動が苦手なA子さんも何とか頑張って2週間で6kgのダイエット、1週間にすると3kgのダイエットに成功しています。かなりがんばってます。とはいえA子さんにとってみれば21kgが目標なので達成まではかなり難しい状態。
 「あ゛~ぁ、まだ6kgしかやせてない・・・、これじゃB君からぽっちゃり認定される…。同窓会行きた~い。でも行きたくな~い。行きたくないけどでも行きた~い。」
 そんな時、友だちのC子からメールが来ました。
『✉同窓会参加できる?』

 「ヤバッ(・_・;) 返事どうしよう…。」
 返事に困ったA子さんは次のような返信をしました。
『✉半年くらい前から少し体調を崩して薬もらってるのね。あんまり長くいられないけど参加して大丈夫かな?』】

 体調を崩しているなんて当然うそです。言い訳です。でもやっぱり行きたいんです。ただ評価が怖い、特にB君からの。
 そこでA子さんは言い訳をして自分自身に不利な状況を作り出しています(セルフハンディキャップ)。これがまさに遂行回避目標、ネガティブ評価を避けるためにとった行動です。
 もちろんA子さんは同窓会前日までダイエットをするでしょう。そして見事目標を達成出来たら嬉しいし、自信をもってB君に会うことができます。
 もしダイエットに失敗したとしても、言い訳という予防線を張っているので自尊心が傷つくことを防げるし、B君から「太ったな」と言われたとしても気恥ずかしさをある程度紛らわすことができ、あわよくば同情を誘うことだってできます。
 遂行回避目標は自分に自信がない時に設定されやすくなります。自信がないから失敗するリスクが高い。そのリスクから目を背けるために不利な状況を作り出す。不利な状況にあれば言い訳がつき自尊感情を守れる。しかし本来やるべきことから逃げることでもあるので、結局のところ後々になって失敗と同じ結果が待っているともいえます。「自分は不利な状況にある」ということを宣言するだけでも、セルフハンディキャップは成立します。その不利な状況が真実か否かは関係ありません。

 今回は目標の種類について紹介しました。教師や保護者が、熟達目標なのか遂行目標なのかを意識することなく単に「目標をたてなさい!!」と子どもに言った場合、子どもを間違った方向へ導いてしまう危険があるということはちょっと押さえておいてください。
 次回は目標をたてる際に注意しておきたいことを紹介します。




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