遂行目標を立てると

 目標はいくつかの種類に分類され、そのそれぞれについてA子さんのフィクションを交え紹介しました。
 今回は、前回紹介した遂行目標についてもう少し見ていきます。

 遂行目標とは他者からの評価があるために設定される目標のことでした。ここに注意したい点があります。
 例えば「テストでクラスのみんなより良い点を取る!!」という目標を立てたとします。点をつけるのはテストを受けた本人ではなく、当然採点者です。つまり他者からの評価がつくことなのでこれは遂行目標といえます。

 ここで一歩踏み込んで考えてみます。
 「良い点を取る!!」という目標を生徒本人が、心の底から思って立てたのならまだいいのですが、その生徒を取り巻く環境を想像してほしいのです。
 その生徒が超成績重視、結果重視の環境にいたとします。するとその環境にいる大人は「次のテストでは〇点以上で合格だ」なんてことを頻繁に言うでしょうね、たぶん。で、生徒としても不合格という烙印を押されたくないから勉強はするわけです。これが1度や2度なら別にいいんですが、何度も何度も毎日のように繰り返されるとどうですか?

 勉強は自分自身を高めるためにするはずですが、「烙印を押されないために勉強する」というとんでもな方向に行ってしまいます。烙印を押されないために勉強した生徒が得られることは何なのかを、大人はよく考えておく必要があります。

 さらにもう一歩踏み込みます。
 成績が今一つの生徒がいたとします。その生徒の成績を何とか上げようと必死になっている大人がいたとします。で、その大人が思いついた方法が、「生徒に目標を立てさせる」だったとします。するとまぁその大人は生徒に対して『今日から勉強について目標を立てなさい』なんてことを平気で言ってくるでしょうね。
 ここでまた考えてほしいのです。

 目標にはいくつかの種類があることを解って、大人が言う分には良いんです。それならちゃんと大人がサポートできますから。
 でもそのことを解っていなくただ単純に言ってしまった場合、生徒の立場で考えると、目標を立てろと命令されていることになります。そして生徒としては悪い点を取って烙印を押されたくないから、「テストで良い点を取る」と目標を立てさせられるわけです。もし悪い点を取ろうものなら大人からガミガミ言われるだろうと想像するわけです。もちろん生徒としても悪い点は取りたくないという本心はあるでしょう。でもそれ以上に大人から命令された、ガミガミ言われたくないという思いの方が強くなるので、この時点で生徒が立てた目標は、自分自身を高めるものでなく『大人の理想を満たす』ためのものになってしまいます。
 いいですか、自分のためのものじゃないんですよ! 大人の理想を満たすために別の他人から良い評価を得るための目標を立てされられているんですよ!!
 そういう環境にいる生徒が勉強を好きになると思いますか? 大人の顔色を窺うために勉強することになりますよ。(もっともこの場合もはや勉強ではなく、与えられた事柄を頭にインプットする作業といった方が適切かもしれません。)

 その生徒がテストで良い点を取ったとします。
 生徒としては、「ガミガミ言われないで済む」とほっとするでしょう。
 大人としては、成績を上げられたことにほっとするでしょう。
 そこには本来勉強することで身に着けるべきものは少なく、大人のエゴだけが独り歩きする事態と言えるかもしれません。

 遂行目標に偏った目標を立ててしまうと、本来必要な物事を見失ってしまう危険があります。もちろん遂行目標は悪い面ばかりではないんですが、負の要素を多分に含んでいるということは納得していただきたところです。
 目標を立てなさい、というのは確かにそうです。大事なことです。でも何の考えもなくただ単純に言ってしまうと、子どもを操作するための道具になってしまうこともあるということは知っておいてください。