思考力を問うテスト問題で気をつけたいこと

 学習塾の広告などでよく「思考力を高める指導」とか「思考力を育てます」などとよくみますが、そもそも思考力とは何のことなんでしょう?
 「思考力って何?」って子どもに聞かれたらどう答えます?
 単純に「考える力」のことだよって言えばいいかもしれませんが、この思考を研究すると実はかなり奥深い内容になります。
 思考は、見聞きした情報や記憶にある情報をもとに、問題を解いたり推理したりする過程のことです。
 
 思考は頭や心の中での働きで、「問題解決」「推理」「確率判断」「意思決定」の4つの分野に関わります。

 思考力テストなんてものがあったとしたら、この4つの分野のうちのどれを測定するものなのかを確認しておく必要があります。
 なので例えば、問題解決力を測定する思考力テストを受けたとする。その点数が悪かったとする。その場合、点数が悪いから成績が悪い・学力が低いなどと即断するのではなく、「問題解決力に弱点があるかもしれないけど、他の3つの分野についてはまだ判らないから、思考力について断定できない。まして成績や学力については判断しようがない」とした方が正確な解釈となります。

 ところで、学校で受けるテストは問題解決力をみることがメインと言っていいと思います。そして学年が上がるごとに徐々に推理力や確率判断といった分野も見るようになってくる。
 なのでテストはあくまでも思考力のごく一部を見ているのだ、ということを念頭に入れておいてください。

 と前置きをしたところで、ここでは思考の4つの分野のうち「問題解決」について書いていきます。

思考の4つの分野  -問題解決

 問題を解いていくうえで、解決に影響を与える要因は2つあります。
 1つは、解決に至るまでの道筋を探していく方法。
 もう1つは、頭の中でどのように理解するかということ。

 まわりくどく書きましたが、簡単に言うと、
 問題を解けるか解けないかの分かれ目は、「試行錯誤が上手くいくか」と「問題の意味を頭の中でどう理解するか」で決まる
 ということです。

 例えば「試行錯誤が上手くいくかどうか」で問題を解けるか解けないかが決まるものとしては、ハノイの塔が代表的なのもとして挙げられます。

ハノイの塔のルールはこちらの記事を参照

 初めてハノイの塔を解く時、ほとんどの人は頭の中で考えるよりも先に実際に手を動かして解いていこうとします。つまり試行錯誤しながら解きます。
 試行錯誤は実際に行動する事で答えを見つけていく事なので、時間はともかくとしてがんばればいずれ解決できます。

 もう一つの「問題の意味を頭の中でどう理解するか」についてはそのままの意味ですが、理解の仕方を間違えたら解決できないということです。つまりどんなに早かろうが、どんなにじっくり時間をかけようが、理解の仕方が正しければ解決できるし、逆に理解の仕方を間違えていればどんなに時間をかけた所で絶対に解決には至らない。なかなか結構厳しい要因であります。

 だから何を言いたいのかというと、「同じ意味内容のことを言っていても、表現の仕方が変わってくると解釈の仕方が変わってくることがある」ということです。これ、結構怖いことですよ。

問題の表現が問題解決に与える影響

 突然ですがここで問題です。ちょっと考えてみて下さい。

【問題1】
 ある男が、1頭の馬を60ドルで買い、それを70ドルで売りました。次に、彼は再びそれを80ドルで買い戻し、それを90ドルで売りました。この男の馬の取引はどうでしたか。
 a 10ドルの損
 b 損得なし
 c 10ドルのもうけ
 d 20ドルのもうけ
 e 30ドルのもうけ

 答えは出せましたか? 無事に答えを出せたら次の問題を考えてみて下さい。

【問題2】
 ある男が、白馬を60ドルで買い、それを70ドルで売りました。次に、黒馬を80ドルで買い、それを90ドルで売りました。この男の馬の取引はどうでしたか。
 a 10ドルの損
 b 損得なし
 c 10ドルのもうけ
 d 20ドルのもうけ
 e 30ドルのもうけ

 どうです、答え出ました?

 おそらく【問題1】の方で少し考え込んだかと思います。
 10ドルのもうけと答える間違いが意外と多いんですね。単純に10ドルのもうけが2回あったと考えればいいので、20ドルのもうけとなります。ということで【問題1】も【問題2】も答えは20ドルのもうけとなります。
 表現の仕方が若干違いますが、問われていることは同じです。

 問題文の解釈に困るような表現をしてムダに難しくしてある問題があります。そのような問題を私は悪問と呼んでいますが、そのような問題に出くわすと、本来できるかできないかを確かめたい部分での検査ができず、問題による正確な測定ができなくなってしまいます。なので、子どものテストの点数が極端に悪いときは、その問題自体に問題がないかを少し疑ってみた方が良いかと思います。

 わかりやすくするためにものすごく極端な例で言うと、
 「醤油1駄買いました。その後醤油2駄買いました。合計何駄ですか。」という問題を小学1年生に出して、漢字を読めなかったり駄の意味が分からなかったりで問題が解けないという感じです。

 算数の思考力を測定したいのか、漢字の読みの確認をしたいのか、この問題でははっきりしなくなります。極端すぎる例ですが、言いたいことのニュアンスは伝わると思います。

 思考力を見る時は4つの分野を見る必要があります。一部分を見ただけでは思考力の判断はできません。まして一部を点数化したところで、成績の良い悪いを結論付けるのはあまりにも乱暴な考えです。
 点数は参考程度に捉えておいた方が良いかと思います。




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